Takayuki Hashimoto

2018.04.02

今から約3年半前、靴職人の男の工房を訪れた。
場所は福井県。田んぼの真ん中にある民家。異常発生していたカメムシに囲まれ、大音量のHard RockをBGMにくわえタバコ。そして膝の上には極限美人な靴が鎮座。
全く似つかわしくないが、この男、John Lobbの職人である。

John Lobbはややこしい話で2つあるんですよね。
一つはみんなが知る、HERMES傘下のJohn Lobb(Lobb Paris)。パリを本拠地に最高級紳士靴ブランドとして君臨しています。
そしてもう一つは、創業当時からロブファミリーによるビスポーク専門店。通称Lobb London。本家本元といったところでしょうか。

橋本氏は後者であるロブロンドンを約10年間担当しており、現在もイギリスで受けた注文をここ日本で製作しているのです。

スタジオの隅に転がっていたちょっと異質な編み上げ靴。

これは14年前に元John LobbのヘッドラストメーカーであるJason氏(師匠)からアッパーと底材を別々に練習用として譲り受け、橋本氏が底付けしたもの。ちなみにパーツ自体はさらにそこから20年前に製作されていたんだとか。
普段履きとして常日頃から着用され、14年経った今でも橋本氏が所有する唯一の”ちゃんとした靴”なのだそう。(この撮影のために借りた時、履くものが無いから早く返せと言われた)

糸が飛んでいたり部分的にクラックしていたりとコンディションはあれでしたが、見ての通りの大迫力。これこのまま欲しいと思った。
シルエットやデザインから、一応ドレスに部類すると思うのですがなんなんでしょうね、この謎のミリタリー臭。

2015年8月13日、自分の誕生日に合わせてオーダーすることに。Takayuki Hashimotoのネームで。
LobbでオーダーするのとTakayuki Hashimotoでオーダーするのとでは、一つ大きな違いがあるんです。それについては思うこと多々あり記載しません。

そして月日が流れ2017年10月完成。
ここまで遅くなってしまったのはいくつも理由があって、一番はお互いのコミュニケーションが円滑にいかなかったことでしょう。オーダー時には当店でのお取り扱いも決まっていたんだけど、やっぱりね、色々壁があったんですよ。
あとはロブの仕事の合間を縫ってしか出来ないですからね。あくまでロブ優先ですから。

こちらが約5ヶ月着用している私物。
すごいよねこれ。もうずっとこれでいいよもう、って思えてしまうほど、何もかもが段違いなのは靴の世界の素人の私にでも感じることができる。
ただ足に馴染むまでがそれはそれは大変だった。とにかく硬い、革が。

アッパーで使用された革はLobbと同じでGermany産のBox calf。個体差があるらしく、中には正直残念なものもあるそうなのですが、今作は大変キメが細かく(靴磨きの某名店ではブラッシング中「すごいです。凹凸が無さすぎて音がしません」と言われた)、そしてなにより硬い。底材も同じく。沈む気配0。
でも勿論そこも彼の狙いであり、「馴染んだら最強だから」とのこと。軽いなー、言い回しが。
そのために雨の日に履いたり、サッカーしてくれって。いやいやおかしいおかしい。
で、2ヶ月くらいである程度馴染んだかな。今はもうなんともない。噂通り、ビッシビシ。

もう全然見慣れている筈なのに、今でもふとした瞬間「うわぁ」ってなるよやっぱり。何度も言うけど本当に段違いなんだと思う。何かが何もかも。
ちなみに橋本氏はロブでは”smart maker”という立ち位置で、主に綺麗な靴を仕上げる担当なんだって。あと口煩いお客専門だそうで。
作るスピードは他の職人の倍かかるらしく、時間を掛けている分なのか、仕上がりの美しさに定評あり。

ヒールはNOS(new old stock)のCAT’S PAWにカスタムしました、先日。
新品時はネイルが2列打たれているだけなので、どこかのタイミングで何かしら手を加えないとなって思って、靴修理専門店に持っていったんです。
そしたら製作者がHashimotoということに担当者がブルっちゃって「本人に確認をとってもらえないと怖くてやりたくない」って言われたんだよね。この時は鼻が高かったなぁ。

さて、帰国後、少量ですがリリースしますよ。

あぁ、こんな感じだったね、新品時。磨きも最低限で、今の私のものと比べるとずっとずっと静かな印象。

オリジナル同様、Box calfとEnglish grainのコンビ。
まるでおもちゃのような型押し(そう、型押しなんです。シボではなく)がもう何周かしてイカしてる。
そして、もう気付きましたよね。外羽なのにまるで内羽のように切り替えがぐるりと一周していることに。
見たことないよね。すごく珍しいと思うんだけど、これはもしかしたらのもしかしたらで、乗馬前に履く為のブーツだった可能性があるかもしれない。らしい。信憑性は薄め。
乗馬ブーツに履き替える前に履くということは、え、2回履き替えるってこと?馬乗るために。もう分かりません。
裏、真っ黒。つま先のスチールは初めから搭載されています。

「ヒールが地面に向かって90度で落ちていない。CAT’Sに変えるならヒールを大分上の方から切り落として新たにヒールを製作し、その上にCAT’Sを乗せる必要があります」とは修理の職人さんの言葉。
今になってだいぶ後悔してきた。
ギザ。本人曰く「靴作りは下手だけどギザは特徴的だと褒められる」のだそう。え、下手なの?もう何がなんだか。

「私が生きているうちは責任を持ってメンテナンスをさせてもらいます。ですが私が死んだら、他の職人に依頼することになりますよね。その職人がソールを外し内部を見たとき、悲鳴をあげると思いますよ」
Takayuki Hashimoto 

最後に、こちらは店頭に出しておりませんので、ご案内をご希望の方はアポントメントを事前にメールで入れてください。
atelier.ishizaki@gmail.com
※プライスは察してください。今までのお取り扱いの中で一番高額かもしれません。