TAKAYUKI HASHIMOTO

2019.08.01
Interview

インタビュー第3回目のゲストはTAKAYUKI HASHIMOTO。John Lobbのビスポーク靴を製作する傍ら、2018年自身のレーベルとしてスタート。これまでの軌跡と製作する上での拘り、そして橋本氏が手がけるJOHN LOBB、TAKAYUKI HASHIMOTO、LEVERで具体的にどのような違いがあるのか。きっと皆さんも気になっていることを中心にお話を伺ってみました。そして8月3日(土)にオーダー会がありますので、彼の言葉が何かのヒントになってくれると嬉しいです。

石崎 : ご無沙汰してます。まず橋本さん、今のメインワークは変わらずJohn Lobbだと思うんですけど、もう何年になりますか?

橋本 : Lobbは10年ですね。

石崎 : 昨年よりTAKAYUKI HASHIMOTO(以下TH)がスタートしたわけですがその経緯は?

橋本 : THを始めた経緯?ぶっちゃけのやつですか?それともちゃんとしたやつですか?

石崎 : (笑) ぶっちゃけがいいな。

橋本 : ぶっちゃけのやつは、声、かけてくれたからじゃないですか?

石崎 : ああ、僕が。

橋本 : そう。それがなかったら始まってなかったんじゃないですか?

石崎 : 元々自分のネームで何かをやろうって気にはならなかった?

橋本 : うん、そうっすね。ないっすね。

石崎 :そもそもLobbで靴を作るのも、THで靴を作るのも、橋本さんにとって違いがない?

橋本 : うん、そうっすね。違わないっすね。

石崎 : ないっすか?

橋本 : ないっす。

石崎 : これは色々な考えを持っている人がいると思うんですけど、Lobbでビスポークをお願いするのか、もしくはTHを買うのか、勿論仕様にもよりますけど大体プライスゾーンは同じじゃないですか。その時にJohn Lobbを選ぶ人が普通というか正解というか。健全だと僕は思うんですよ。ブランドバリューがあるということですらデザインだと思いますし。

橋本 : でしょうね。

石崎 : しかしそこでTHを手にとってしまうのが僕なわけで。へそ曲がりなところがあるから。橋本さんとしてはどちらを選んでほしいとかあるんですか?

橋本 : ああ、そりゃあこっち(TH)を選んでほしいですよね。直結してるんで。でもどうですかね?僕はこうして今もLobbをやっていて、THもやっていて、違いがないというのは、まず何故Lobbをやり続けているのかって話になっちゃいますね。とりあえずそこ聞いてもらえたら分かってくれると思う。

石崎 : 聞かせてください。

橋本 : それはJason、僕の師匠です。理由の一つは彼の故郷であるということ。それとEnglishのヒーローであるLobbをメインで底付け職人をやっていた人たちに憧れていまして。元々靴の作りが気になって入ってるんで自然とmakerになったんですけど、maker冥利につきるっていうか、マテリアルの揃え方、底材とかね、そういうところにすごくリスペクトがある。だから僕はLobbを続けているんです。

石崎 : Jasonと、そしてJohn Lobbへのリスペクトですね。

橋本 : Lobbへの感謝があり、Lobbファミリー、そして一緒に靴を作り上げているそこで働く皆が大好きです。しかし、より気持ちがある職人ほどやめなきゃいけないというか、良い靴を作ろうと思えば思うほどいられなくなってくるんですよ。

石崎 : いられなくなる?どういうことでしょうか?

橋本 : 要は家族経営の極みなんですあそこ。ロイヤルワラントがあるから変わったことはしないとかね。考え方が超保守的。ザ.イギリス。でもそれが”John Lobb”。僕はね、そういうギチギチなしきたりの中で自分が思う良い靴を作りたいんですよ。「なめんな」っていう。愛情としてのなめんな、ね。

石崎 : 「なめんな」ね。深い。

橋本 :※過激な発言のため掲載できません

石崎 :なるほど。 THでは橋本さんが理想とする設計でやるってことですね。

橋本 : そうです。底材もLobbよりも厳選してるつもり。同じ会社からひいて。まぁ何を持って良いとするかは人それぞれですけどね。当然柔らかいのが良いって人もいる。僕は履くこともそうですけど、それ以上にオブジェとしてカチッと上げるのが好きなんです。

石崎 : なるほど。”Lobbで橋本さんが担当する靴” VS “TH”ってなった時、勿論一概にどちらが最高かは測れないけど、THは橋本さんのBest of Bestを感じることができる、ということですか。

橋本 : そうですそうです。特に底付けに関しては。チームもそういうチームでやっているんで。

石崎 : そうですか。聞けてよかったです。中々こういうことって僕がお客さんに代弁するには限界のある、橋本さんの心の声だと思うんです。ハートでやっちゃってる人だから。あとは僕らこうやって会うのやめたじゃないですか。すぐ仲悪くなっちゃうから。今は間に一人通訳がいますし。(笑)そういうこともあってまた新鮮な気持ちになった。

橋本 : S村ね。

石崎 : はい、S村さんが入ってくれてるんで。(笑)さて、THが欲しい人、結構いらっしゃるんですよ、金額的な部分は置いておいて。ありがたいことに。ただ生産できる数があまりにも少ないでしょう?一般的なブランドのように「3ヶ月で20足ください」が通用しないじゃないですか。

橋本 : 無理ですね。月1足。

石崎 : ですよね。だから欲しくてもそもそも手に入らないというか。そこで登場したのがLEVER。これは本当に驚いた。だって、PATHに関しては見た目っていう部分では全く一緒じゃないですか。僕はやはり服の人間なので、ヴィジュアルを大事にしがちなんで、THとLEVERで値段が倍違うのであれば余裕でLEVERがいいなって。革のクオリティも同じというか、本当に同じなわけで。革ですね、とにかく革に感動した。LEVERがスタートする以前にTHを買ってくれたお客さんに後ろめたい気持ちが若干ありましたし。ただ厳密に言えば違うわけでしょう?そもそもLEVERには橋本さんは職人的な着手はしていないわけで。人を、チームを動かしている、監督のような立ち位置というか。今のチームは何人なんですか?

橋本 : えーとね、1,2,3,…。いやちょっと待って。1,2,3,4…あ、5。いや3?いや5。

石崎 : 3人と5人で全然違うけど。(笑)で、そのメンバーについては話せない、と。

橋本 : 話さない方がいいですね。

石崎 : ぶっちゃけ僕は知っていますけど、お客さんは知らないので。ネガティヴに言えないのか、ポジティヴに言えないのか、それくらいは伝えたいのですが。

橋本 : お任せします。ただこのLEVERというプロダクトは本国には存在し得ないものに仕上がっていると思います。

石崎 : だってもう、オールスターじゃないですか。勿論言えない理由というか事情があるわけですけど。普通に考えてこんなことはありえない。ドリームチーム。

橋本 : ですね。そっちはそっちで良いですけど、また新しいチーム作ったんですけど、そっちがやばいです。これ作ったのがその彼ら。やばいです。鳥肌立ちました。

※左 S.Molton 99′ 右 PATH 

石崎 : 相変わらず一切磨き無しですね。THとLEVER、モノとしての具体的な違いを教えてください。明確に価格差があるわけじゃないですか。

橋本 : まず底材の違い。圧倒的な違いがあるんですけど、みなさん解らないと思います。でも全然違う靴なんです、僕からしたら。どっちの方が良いとか、劣ってるとかは無いです。好みの問題。その人にとってLEVERの方が値段がハマるのであればそっちだと思うし。正直THは高いです。でも僕にしか出せない雰囲気があると思っています。Makerの中でも特殊なタイプなんで。自分のカラーが出てる。革の引っ張り方だったり顔の作り方が。一方LEVERはいわゆる九分仕立ての靴の限界を超えた、ある種の挑戦。

石崎 : なるほど。僕は前作のOxfordに関してだけで言ったら、LEVERの方が好みでした。THよりも。何回も言いますけど僕はヴィジュアルに重きを置きがちなんです。勿論プロセスがスペシャルというのは嬉しいオプションなんですが、そこ抜きにしてツラだけで見たとき、あの縦がやや短いキュッとしたバランスにファッションのセンスを感じました。僕は見ての通りカジュアルに合わせたいし、あとなんだかんだでちょっと変わったのとか好きなんで、LEVERのOxを見たとき、LEVERにすればよかったーって思った。

橋本 : そうっすか。

石崎 : じゃあ作品解説。

橋本 : そんなのもあるんですね。

石崎 : まずPATHから。橋本さんが履いているものがオリジナルになりましたけど、なかなか感慨深かったんじゃないですか?ずっと履いてますし、あとストーリーも良い話だなぁって思いますし。

橋本 : そうですね。まぁ全然好きじゃなかったんですけどね。最初は全然履いてなかったです。

石崎 : え、そうなの?元々は練習用だったんですよね?

橋本 : そうですね。練習用に作ったけど、その当時は黒い靴を履かない感じだったので。ただしばらくして「履く靴ねーなー」ってなってそれで履きだして。これは木型がよかった。あと切り返しが好きです。

石崎 : 僕にとっては見たことないバランスでした。普通、外羽根のデザインだったらここで下にスッと落ちる印象があるんだけど、これはぐるり一周するじゃないですか。あとはドレスだけどどこかミリタリー感があって、でもやっぱり全然ドレスで、みたいな。合ってます?(笑)

橋本 : 合ってます合ってます。僕の中ではクラシックとミリタリー感、ワーク感。変なバランスで保たれてる、いいとこ取りしてる変な靴っすよ。面白い。

石崎 : 普段Brift Hで磨いてもらっているのですが、いつも革を本当に褒められるんですよね。ブラシしてて音が鳴らないとか言われて。これ本当に凄いことなんですよって。「でしょ?」って返すだけだけど。

橋本 : やばいと思います。普通の量産だったらワインハイマー1枚広げて、歩留まりっていうのがあるんですけど、デザインによってパターンにするとすごく大きいから、切り返しをこうすればもっと詰めて革をとれるって考えになるんですよ。LEVERは量産のレベルじゃないことやってるんで。普通いけるところまでとるんですよ。血筋とかも内側に持ってくればいいみたいな。LEVERはそういう取り方をしない。ビスポークなら2足、量産なら6足、のところLEVERは3。イカれてる。

石崎 : あとは革のグレードというか、そういうのも選別してるわけじゃないですか。

橋本 : 生き物なんで、そういう育ち方してる牛さんかっていう。ぶっちゃけ全体的に質は落ちてきてるんですよ。良い靴って原皮にすごく左右されるんで。その中でもワインハイマーはなめしや加工がうまい。

石崎 : 次はこれ。モールトン。ジッパーでね、すごく気に入ってますよ。

橋本 : こいつは、僕が最初に靴に出会ったというか、靴ってどうやって出来てんの?って思ったブーツがあって、その切り返しがまさにこれなわけで。それが影響してて。そのブーツを買ってどうできてんの?って思ったあの夜、みたいな。

石崎 : あの夜。はい、続きをどうぞ。

橋本 : それと、イギリス行ったばかりの頃にVHSで観たバッファロー66。まじで英語が意味わかんねーみたいな。ただギャロの赤いブーツが印象的だったじゃないですか。で、半年後にもう一回観たら英語が全部わかったんですよ。自分の成長が確かめられた映画で、そのギャロのブーツを浅く調べたら同じように切り返しが合ったんで。あ、なんかハマった、みたいな。原点だなぁみたいな感じになった。LEVERやるにあたって、そもそもデザインしたくなくてこの世界に来たようなもんなんで、これくらいしか思い浮かばなかった。

石崎 : わかりました。ありがとうございます。第一弾がこれ(PATH)で、第二弾がモールトン。橋本さんがずっと履いてきている靴だったり、靴の世界に入るきっかけのような靴だったり、そういう”人生”的なモデルになっていますけど、そういうアレですと次々にというのは難しいんじゃないですか?あ、Oxfordありましたね。あれは職人の真価が問われるから一番難しいんだって言ってましたね。とにかく、各々に重さを感じるんですよ。で、次は考えていますか?

橋本 : ですね。今年はローファーは、出ませんね。

石崎 : ローファー出るんですか?

橋本 : やる予定だったけど、出来ないから出ない。

石崎 : スケジュール的なものではなくて、橋本さんの中でまだ完成に至っていない、と。

橋本 : そういうことにしておいてください。

石崎 : わかりました。ただそれは僕としては嬉しいんです。新作が出ないということが嬉しい。ファッションというのは常に新しいもの、似ていたとしても前回よりも改善されていたりっていう進化は良いんですけど、変化がめまぐるしいから、人によってはどれだけ気に入っていても、新しい年になったら古いものになってしまう。で、新しいものを身につけるっていう。目先の欲望で手に入れる娯楽でもありますし、それはそれで良いんですけど、THやLEVERは値がするものだし、ファッションブランドを一番やらない人がやっているメーカーでもあるから、新しいものがむやみやたらに出ないというのが嬉しいんですよね。あ、これ上がりの靴なんだって。橋本さんがそういうスタンスでいてくれるから2年前に手に入れたTHのPATHをちゃんと磨いてまた履こうって気にさせてくれるんですよね。

橋本 : ありがとうございます。

石崎 : これはファッションビジネス的にはご法度な行為なんです。それをありにしちゃったら終わりな部分もあるんで。辿り着いたからずっと変わらない、そういうモノほど怖いものはないんです。でも僕もこの業界短いわけではないので、そろそろ上がりてーなーって思いもあるから、そういうスタンスでいてくれるこの靴を毎年履けるっていうのは中々ファッションでは味わえないことなんですよ。でも僕は一生上がれないタイプなんですけどね。

橋本 : そうですか。

石崎 : そろそろお時間です。最後に、橋本さんにとって靴づくりとは?

橋本 : なんですか急に。

石崎 : 聞くようにしてるんですよ。

橋本 : “安定剤”ですかね。

石崎 : 安定剤。

橋本 : 安定剤。

石崎 : 精神的に安定する、みたいな?

橋本 : そうです。でも日によって変わります。呼吸とか皮膚とか。今日は安定剤。

石崎 : じゃあおまけの最後。橋本さん、これからまだまだ人生長いと思いますが、これからも靴一本で?

橋本 : わからないです。決めてないですね。決めてないから分からないけど、そのつもりです。Makerとしてこれからもイギリス靴を作り続けていきたい。昔Jasonに、イギリス靴の歴史のチェーンの一部としてここにいるんだ俺はって言われた時、は?何言ってんだ?って思ったけど、今なら分かる気がするんです。Makerとして、自分はずっとイギリスのJohn Lobbをメインに作り続けたい。僕がペーペーの頃、修理の靴を開いてインソールとかヒールのつぎ方とか、釘の位置とか見て勉強したんですけど、僕が作り続けた靴が100年後残ってて、その息子さんがそれを履いてて、Lobbに修理に出した時に当時の僕みたいな駆け出しのやつがバラしてヤベッってなったら嬉しいっすよね。目標ではないけど、そうなったらいいなと思います。

石崎 : ありがとうございます。上手く締まりました。

橋本 : よしっ!

 

 

 

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